ボールペンの “ボール径” って、大抵は1.0mmです。
それは1.0mmが、最も多くの人が様々な目的で使いやすいからです。
しかし最近の日本人は持ち歩くものが多くなり、バックパッカーが増えています。(電車の中なんか、本当に大変ですよね)
そんな時に小さな文字が書きやすくて、その結果として持ち歩くノートのサイズや冊数を減らせるジェットストリーム0.28mm替芯は、救世主のような存在です。
しかしネットで検索すると、0.28mmの評価に厳しい人たちが存在します。彼らに共通するのは基本的に、万年筆を使う程の文房具好きだということです。そして文房具通としてコメントするので、その人たちのコメントを読んだ方々は「へえー、そうなんだ」と思うことでしょう。
私のように0.28mmを快適に利用できているボールペン族からすると、万年筆族の影響でジェットストリーム0.28mmの将来に悪影響が生じるのは大変困ります。
そこで今回は0.28mmのジェットストリームの威力と利用時の留意事項などを、改めてレポートさせて頂くことにします。
なお0.28mmのジェットストリームのエッジに関しては、下記記事で使い勝手やオススメ筆記具を紹介しています。
ともかく0.28mmのジェットストリームのエッジという代物は、うっかり筆記具を寝かせてしまいがちな万年筆族とは決定的に相性が良くないです。
万年筆族の課題
私も元万年筆族ですけど、万年筆族は鉛筆族から派生した種族です。
小学校の時に習う鉛筆の使い方は、ノートなどに対して50-60度くらいに寝かせた書き方です。日本筆記具工業会の鉛筆ページでも、これが「正しい持ち方」だと説明されています。
この鉛筆の持ち方に慣れた者たちが、鉛筆に飽き足らずに万年筆を使うようになります。理由は万年筆の方がオシャレだとか、筆圧を調整する訓練になるとか、長時間筆記に向いている等、多種多様です。
さてその万年筆ですけど、ペン先のニブと呼ばれる形状から分かるように、筆記具を寝かせ気味にして使用します。
日本筆記具工業会の万年筆ページでは具体的角度を説明していませんけど、図を見ると45度くらい向けに製作されている万年筆が多いようです。
これらに対してボールペンは、なんとボールペンは60-90度が適正角度となります。日本筆記具工業会のボールペン紹介ページの図を見ると、その理由が理解できます。
ペン先に装着された “ボール” に付いているインクが、ボールがローラーのように転がって紙面に残っていくのです。だから90度近い角度が理想的になるのです。
習字の筆も90度近い角度で使いますけど、実はボールペンも似たような存在なのです。60度を切ると、ボールを収納した壁をこすってしまうし、紙面に接するボール面積も減少してしまいます。
つまりボールペンというのは、鉛筆や万年筆とは全く筆記角度が異なるのです。そしてインクの性質によってもボール回転が異なるし、限界角度や書き味が変わって来ます。
そういえば私の職場では備品棚からシャープペンシルが消え去り、ボールペンだけになってしまいました。筆記具に応じて筆記角度を変えて使うというのは、なかなか難しいことかもしれません。
だから万年筆族が画期的とはいってもボールペンに属する0.28mmジェットストリームを評価するというのは、なかなか難しいものがあります。
それが、次のようなところで問題となって顕在化します。
ペン先を持たない
普通にボールペンを署名用に使う程度ならば、別にボールペンのどこを持つかは気にする必要がありません。だからファーバーカステルの伯爵コレクションなどという、とんでもなくデザイン優先のボールペンも存在しています。
ちなみに三本のうち、真ん中はギロシェと呼ばれるシリーズです。一般に伯爵コレクションと呼ぶ場合は、一番上や一番下のボールペン軸になります。
一見して分かるように、ペン先の口金の長さが異なります。ギロシェは20g台に留まっていますけど、これらは木軸にもかかわらず30gを超えています。
まさに “伯爵のコレクション” です。実用性など、どこかへ消え去っています。デザインこそが全てなのです。
ここら辺をご存知ない万年筆族のブログでは、「伯爵コレクションは実用的です」とレポートされていますが、ギロシェにしても重心が後端寄りに置かれています。
ちなみにギロシェを家宝として、婚姻届や出生届に利用なさっている方も存在します。私としては、その気持ちは良く分かるつもりです。
ギロシェにしても、普通のボールペンとは使い勝手が全く異なります。手に取った瞬間に、「ああ、私はギロシェを使っているのだ!」という気持ちになれます。そう、これこそがファーバーカステルの伯爵コレクションの真骨頂なのです。
しかし伯爵コレクションでペン先を緻密にコントロールするのは、正直言って1時間程度が限界です。
実は一番上のファーバーカステル伯爵コレクション・アネロ(エボニー)軸は、TVドラマで変人ガリレオ湯川学先生が第1シーズンで使用したものです。
私も元万年筆族でしたし、ミーハー心で購入してしまいましたけど、ボールペンは万年筆とは違ってペン先を持った方が使いやすいです。
万年筆だとニブなどもあってペン先は持てないですけど、0.28mmのジェットストリームこそ緻密なペン先コントロールが大切です。しかし万年筆族は、そういうことは得意ではないのです。
忍耐が足りない
この画像は、ほぼ日手帳へ0.28mmのジェットストリームを中心とした各種インクで書き込んみたメモです。文字が掠れるとか、どこか問題ありますでしょうか?
(予算の関係で、子供が使わなかった2019年版である点はご容赦下さい)
ちなみに0.28mmのジェットストリームのエッジは、冒頭画像にあるアウロラのオプティマ軸(高級ボールペン!)へ装着したものを使用しました。大型付箋紙をプラスチック芯の周囲に巻き付けた即席替芯です。
0.28mmのエッジ替芯向けの専用ボールペン軸でもないのに、全く問題なく書けています。クッキリ・ハッキリとしていて、書いていても爽快でした。
それではどうして「いろいろな紙で試したけど、全て掠れた!」などというコメントになったのでしょうか?
これは推定原因で申し訳ないのですが、「忍耐不足」が考えられます。
モンブランだとかアウロラといった筆記具メーカーは、もともともは万年筆から始まりました。それ後で、世の中の流れに沿ってボールペンの製造も開始しました。だから、いわゆる “高級ボールペン” の替芯は、万年筆族の利用を想定して開発されているのです。
具体的に説明すると、使い始めた瞬間からインクフローが安定して供給され、少しくらいボールペンを寝かせて書いても、文字が掠れないように工夫されたインクやペン先が開発されているのです。
でも、そそもそも年度のある油を使っている油性ボールペン向け低粘度インクは、なかなか技術的にムズカシイです。S.T.デュポンのイージーフローという低粘度インクを使ってみたらb最初の “2週間” は、イヤというほどインクフローが豊潤でした。
そこまでジェットストリームは酷くありませんけど、逆に最初のうちはインクフローが “渋い” です。我慢して1日くらい使い続けていると、インクフローが安定して来ます。
これは別に0.28mmのジェットストリームに限った話ではなく、0.7mmのジェットストリームでも経験しました。いや、ZEBRAの0.7mm替芯でも経験したので、1.0mm以外の全ての替芯に共通の話なのかもしれません。
こういった状況を耐えて、0.28mmとか0.38mmの油性インク利用者は、ボールペンを使っているのです。高級筆記具メーカーが自社の高級ボールペン向けに0.7mm未満の油性替芯を提供しないのは、無理ないことだと思います。
そういえば別に高級ボールペンに限らず、一般のボールペンにしても、シグノ307のような水性インク(ゲルインクの0.38mm)が大人気ですね。油性インクは速乾性に優れるのが素晴らしいですけど、インクフローだけに拘ると水性には及びません。
つまり小さい文字を好む油性ボールペンのユーザーには、インクフローが安定するまで使い続ける “忍耐力” が必要なのです。
ある意味で高級筆記具メーカーの高級ボールペンの特別サービスに慣れた万年筆族には、完全に欠落している資質なのかもしれません。
ペン先を寝かせるクセ
これは「かすれて使えない」とレポートされていたモレスキンノートへ書き込んだメモです。ポケットサイズの無地版ですけど、これを見て「使えない」と思いますか?
なおコメントとして書き込んでいるように、0.28mmのジェットストリームのエッジ替芯であっても、インク溜まりが生じています。ただし0.28mmの細さのおかげで、じっくりと観察しないと気付けません。
かつてジェットストリームユーザにとってモレスキンノートは鬼門でした。1ページくらい書き込むとボール部分に異物混入するようで、掠れが生じていました。
この掠れるという現象は、モレスキンノートが長期耐久性を実現するために特殊加工の紙を使用しているために生じていました。しかし最近のモレスキンノートでは、そういう事態には遭遇しなくなりました。
画像の通りで、1ページほど書き込んでも絶好調… と言いたいところですけど、実は2箇所ほど問題箇所が存在しています。
右側のページの一番上と一番下の部分ですけど、”文字掠れ” が生じています。
これは、うっかり私がペン先を寝かせてしまったことが原因です。私も矯正したとはいえ、元万年筆族です。こういうギリギリの部分では、つい昔のクセが顔を出してしまいます。
この1年間ジェットストリームだけを使い続けて来た私でさえ、つい油断するとペン先を傾けて書いてしまうのです。
万年筆族が無意識にペン先を傾けて、「文字が掠れる!」とコメントしても、非難するのは気の毒だと思っています。
ちなみに掠れるということは、何かを削っているのかもしれません。微細なゴミがペン先のボール収納部分に入り込むと、さらにインクフローは悪くなります。
これの悪循環を少しでも断ち切るには、ゴミを取り除くが最も効果的です。
ボールペン族に伝わる習慣の一つに、「インクが掠れたらティッシュに書き込め」というものがあります。果たして0.28mmのジェットストリームで効果があるかは定かではありませんけど、人柱として試してみると喜ばれるかもしれません。
丁寧な動き
万年筆は水性インクでインクフローも豊富なので、小さい文字よりも大きな文字を書くのに向いています。
だからアイディアをまとめる図表を書く時などに、高速でペン先を動かします。
一方でボールペンは、ボールに付いたインクが紙に残っていくのです。あまり高速に動かすと、ボールが付いていけません。特に0.28mmという小ささだと、さぞ大変だろうと推察します。
(なんか私、ボールを生き物みたいに捉えていますな)
それはともかく、ボールペンは万年筆のようにペン先のニブにインクを溜め込んでいません。出来るだけ限界を超えないように、丁寧に扱うのが理想的です。
シアワセになる方法
さて以上から万年筆族が、いかに0.28mmのジェットストリームのエッジ替芯に向いていないか、分かって頂けましたでしょうか。
私もジェットストリーム一筋の生活を一年ほど続けましたけど、まだまだです。
私の母は万年筆族で、父はボールペン族でした。その彼には、まだまだ遠く及びません。
それでは万年筆族は引き続きバイブルサイズのシステム手帳以上のノートなどを使い、ゴルゴだの丘まで十字架を背負ったイエスキリストのように、ひたすら重い荷物に耐えて移動しなければならないのでしょうか。
私のように1年かけて修行を続けるのは大変だし、万筆族であることを捨てるということ自体が厳しいかと思います。
そこで私としては、どうしても0.28mmのジェットストリームのエッジ替芯を使いたいと願う万年筆族の方には、次の試みは如何かと考えています。
(1) 0.28mm向けボールペン軸
冒頭に紹介したように、いろいろなデザインのボールペン軸が存在します。
三菱鉛筆のジェットストリーム専用軸程度では、ペンを寝かせて書く習慣を抑えることは難しいかと思います。(だからこそ、評価レポートで「掠れが止まらない」とコメントが出る訳かと)
私としては、自然と直角に近い角度になるボールペン軸を使ってみては如何かと考える次第です。
(2) 筆記姿勢の調整
どうしてもペン先を寝かせる習慣が身に付いている万年筆族の場合は、下記記事のように “筆記姿勢の調整” が有効のようです。
少なくとも元万年筆族の私の場合は、大変シアワセになることが出来ています。
(3) 0.28mm向けメガネ
小さな文字を書くには、しっかりと手元を見ることが役立つかと思います。
ある意味で石坂浩二さんがプラモデルを造る時と同じように、専用メガネを使ってみるのです。
現在ではメガネをかけたまま装着可能な、”ハズキルーペ” というものが存在します。
まずはこういったもので「小さな文字の世界」に慣れて、それから少しずつ様子を見ていくというのも悪くないような気がします。
まとめ
本当に0.28mmのジェットストリームのエッジという代物は、うっかり筆記具を寝かせてしまいがちな万年筆族とは決定的に相性が良くないです。
正直言って、私も元万年筆族ということには未練が残っています。
だからこそシグノ207という0.28mmゲルインクを試したり、シグノ307という0.38mmセルロースファイバー採用インクを試している訳です。
しかし先程の画像の通りで、油性インクの0.28mm径というジェットストリームは、クッキリ・ハッキリです。大きな文字で書いても、しっかりと読めます。
しかし「あちらを立てれば、こちらが立たず」です。本当に嬉しいというか、悩ましい時代になったものです。
それでは今回は、この辺で。
ではまた。
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記事作成:四葉静